育児休暇で得た、家族とのかけがえのない時間
2023.05.08
本学では2020年に協生環境推進室が中心となって「慶應義塾育児支援プログラム(KIDS)」を開設するなど、様々な制度や支援策によって教職員の仕事と育児との両立をバックアップしてきました。特に最近では男性の育児休暇に社会の注目が集まっており、本学でも取得率向上のための環境整備を進めています。今回は、過去に取得した教職員の方3名にお集まりいただき、当時の経験や思い出、今後の課題などについてお話をうかがいました。(2023年3月実施)
※出演者の一部仮名です
物理学科教員(写真:左)
岡 朋治 さん
2008年4月に准教授として入職、2015年4月より教授。天体物理学、宇宙電波天文学の科目を担当し、中心核超巨大ブラックホールの起源解明に向けた観測研究などを推進中。
技術支援課技術員(写真:中央)
斎藤 一郎 さん
2008年4月入職。矢上物理情報工学実験室にて、学生実験の準備や成績管理などの教育支援、学生や教員の研究活動に対する技術的な支援に従事。
技術支援課技術員(写真:右)
坂本 慶太 さん
2016年4月入職。マニュファクチュアリングセンターにて、工作機械などを用いた授業や研究の支援を担当。
家事も育児も夫婦の共同作業
― まずは、皆さんの現在の“パパ環境”からお話しいただけますか?
岡:3歳と9ヶ月の息子2人がおりまして、妻は現在育休中。上の子を保育所に送り届けるのがルーティンですが、在宅での仕事を増やすなどして、できるだけ家事や育児に参加するよう努めています。下の子が1歳になったら妻も復職する予定なので、新たなオペレーションをもっか検討中です(笑)。
斎藤:うちは3歳と1歳の娘2人です。妻の職場では子供が3歳になるまで育休が取れるので、一人目のときから継続中。上の子は幼稚園に通わせています。仕事の特性上ほぼ毎日出勤ですが、やはり子供2人を妻のワンオペではきついので、私が朝食の準備や夕飯の買い物をしたり、入浴と寝かしつけを妻とリレーでするなどしています。我が家ではもうしばらくこのシステムでしょうか(笑)。
坂本:1歳の息子がいます。妻は出産前に退職したので今は専業主婦ですが、家事も育児も夫婦で支え合う共同作業だと思っています。私も斎藤さんと同じ技術員なので出勤が基本。少しでも家族と一緒に過ごしたくて、つねに定時退社が目標です。
周囲が快く応援してくれて、躊躇なく育児休暇を選べた
― 皆さんは授業に関わるお仕事ですので、育児休暇の取得には色々工夫もされたかと思います。当時のことをお聞かせください。
岡:長男が生まれたのが1月中旬と学期中だったので、2月に入ってから1ヶ月間取りました。いたって自由な職場なので周囲に気をつかうことはありませんでしたが、当時は男性教員の取得が珍しかったようで、女性教員の方々から大変お褒めに預かりました(笑)。昨年5月に次男が生まれたときはすごく迷いましたが、妻が「育児にも慣れたから大丈夫」と言ってくれたので、取得しないまま現在に至ってます。
斎藤:一人目のときは身近に前例がなかったので、そもそも取ることを考えもしなかったんです。でもその後、一般企業に務める友人たちが普通に取っていることを知って、二人目では絶対に取ろうと決めていました。10月に生まれて、取得したのは岡先生と同じく学期が終わってからです。職場の人たちが快く応援してくれたので、気後れするようなこともありませんでした。
坂本:斎藤さんが先例をつくられたことで、私はすごく取りやすかったです。部署の人たちも対応に慣れた感じで(笑)。育休は1ヶ月ですが、出産直後の特別休暇と、コロナ禍で取れなかった慶日休暇も併せて約2ヶ月の休みをもらいました。妻は産後しばらく体がつらそうだったので休暇中は家事のすべてを引き受けましたが、家族にとって大切な時期を一緒に過ごせて本当に良かったと思います。その節はたくさんのアドバイスを、ありがとうございました。
斎藤:今や坂本さんの方がずっと制度に詳しいですよ(笑)。私も休暇中は家事全般を担当しましたが、ちょうど上の子の赤ちゃん返りが始まって難しいときだったので、めいっぱいかまってあげられたのが何よりでした。
岡:うちも次男が生まれてしばらく長男が不安定になったので、仕事をしながらも僕が彼のケア役に回りました。コロナのおかげと言っては何ですが、リモートでできることが増えたのと、出張が減ったのがとても大きかったですね。
男性の育児休暇取得がもっと増えるために必要なこと
― 育児休暇を経験されて、何か課題だと感じたことはありますか?
坂本:私や斎藤さんのような技術員の場合、授業時期を考慮する必要がある反面、あまり異動がないので部署内に協力を求めやすい環境だと思いました。定期異動のある他の部署では、そこが少し課題になるかもしれません。
斎藤:確かにそうですね。あと、制度そのものは充分に整備されているんですが、まだ利用者が少ないためにノウハウとして蓄積されていない部分があると感じました。「こんな場合は、こうする人が多いよ」みたいな事例がない。まずは私たち経験者が進んで発信していく必要がありますね。
岡:二人目のときがまさにそうでしたが、教員の場合は働き方の自由度が高いので、取得しないでもある程度はやりくりでどうにかなるんです。ある意味の「ノウハウ」があると言っても良いでしょう。そうまでするのは、やはり授業や研究に穴を空けたくないと思うからです。それと、収入減の問題も少なからずありますね。制度ができて、ノウハウや文化が築かれた後に残るもう一つの課題ではないかと思います。
斎藤:私も昨年末に源泉徴収票を見て、それは少し感じました。学内に限らず、日本全体で取得が広がらない理由の一つなのかもしれませんね。
― 先日岸田首相が、男性の育休取得率を2025年に50%※まで引き上げたいと表明していました。
※2021年の取得率は13.97%
坂本:働き方改革だけでなく、少子化対策としても本格的に取り組むということですよね。経済的な支援も様々強化されるようですので、注目していきたいところです。
岡:うちは介護という課題も間近に迫っているので、そこもぜひ(笑)。私が育休を取って良かったなと思うのは、まず子どもがすごく喜んでくれたこと。そして妻から「ありがとう」と言われたことでした。何かと課題はありますが、あの1ヶ月は何ものにも替えられないかけがえのない時間だったと思います。
(Photo by KIYOSHIRO OKADA)