KEIO TECHNO-MALL 2023
「ジェロントロジーと科学技術の関係を考える」シンポジウムを開催
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2024.01.23
2023年12月15日東京国際フォーラムにて、24回目となる慶應義塾先端科学技術研究センター主催のKEIO TECHNO-MALL(慶應科学技術展)が開かれました。その中で行われたシンポジウム「ジェロントロジーと科学技術の関係を考える」には、当学部の今井潤一教授と高山緑教授、医学部より岸本泰志郎特任教授が登壇。司会を岩波敦子教授、牛場潤一教授が務め、登壇者によるプレゼンテーションと今後の課題解決に向けた活発な議論が交わされました。
ジェロントロジーは「老年学」「加齢学」とも呼ばれ、世界有数の高齢化先進国となった日本において昨今注目が高まる領域です。当学部でもこの大きな社会課題に対してどのように貢献すべきかが長く議論されてきており、このシンポジウムには金融工学や心理学、精神神経薬理学などの分野からジェロントロジー研究に携わる3名が集い、理工学技術による援用方法が議論されました。
最初に登壇した岸本特任教授(医学部 ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座)からは、2016年に発足した「ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター」の活動報告が行われました。家計金融資産の40%を70歳以上が占める国内では認知機能の低下などから金融取引に問題が多発しており、同センターでは内閣府の支援を受け、高齢者が生涯にわたって自律的に経済活動ができる包摂的な社会経済システムの構築に向けた研究プロジェクトを進行中。その中から、金融機関と自治体や福祉団体が連携して認知機能の低下を早期に発見し支援する仕組みづくり、金融取引における判断能力を明示できる「パスポート」の導入、精神病理学や自然言語処理を用いた精神疾患の定量技術開発などが紹介され、今後の展開が大いに期待される発表となりました。
続いて登壇したのは、理工学部の高山教授(外国語・総合教育教室)。生涯発達心理学の研究を基にした「ヘルシーエイジング」の視点から、ジェロントロジーと科学技術の関係が語られました。その中で、超高齢化が進む社会ではヘルシーエイジングの概念そのものにパラダイムシフトが起きているとし、従来のように“健康”を追求するのではなく、病気や障がいがあっても本人にとって望ましい状態でいられ、本人が重要と考えることを実行できる「機能的能力」を維持し、発達させながら年齢を重ねていくことが重要視されていると解説。さらに、機能的能力は個人に「内在する能力」と環境の相互作用から形成・維持されるため、加齢によって内在する能力が低下してもサポーティブな環境によってそれを上回る機能的能力が発揮される可能性があると述べ、広範な科学技術の発展によってヘルシーエイジングが実現できることへの期待を強調しました。
3人目の登壇者は同じく理工学部の今井教授(管理工学科)で、金融工学や金融リスク管理の観点からのジェロントロジーが語られました。「金融ジェロントロジー」における重要テーマである「老後資金」については、貯蓄の運用方法によって老後の暮らしがいかに変わるかを計算例を用いてわかりやすく解説。次いで、考慮すべきリスクとして「長生きリスク」「介護リスク」「認知症リスク」などをあげ、それぞれに対する金融モデリング、金融商品によるリスク管理方法が紹介されました。最後に研究者の視点からとして、個人情報などの取り扱い、公的機関の分析情報の公開、適切な金融商品の開発、金融教育といった課題があるとし、理工学部においてもさらなる研究・検討を続けていきたいとの意欲を語りました。
プレゼンテーション終了後に登壇者3名によるディスカッションが行われ、今後システムやプログラムを開発するにあたっては、利用する側の視点に立つこと、持続可能なものであること、無意識に使える利便性が重要である点などを共有。さらに、認知症への対策は喫緊の課題であるとし、金融機関や公的機関からの情報提供という難しい課題をいかに乗り越えるかがポイントとなるなどの意見が交わされました。
シンポジウム終了後、準備にも携わってきた司会の牛場教授は今回の開催意義に触れ、「24回を数えるこのイベントでも、ジェロントロジーはおそらく初めて掲げるテーマでしょう。今回のシンポジウムで、様々な知見が求められる課題であることがご理解いただけたと思いますし、理工学部ひいては慶應義塾大学の総合力が今後大きな役割を果たしていけるというメッセージになれば嬉しい限りです」と、手応えを語っていました。